出産も佳境に入っている。
もちろん立ち会い出産だ。
少なくとも僕はそのつもりなのだが・・・・・・今は廊下で待っている。
看護士さんが数人、小走りで分娩室に入っていく。
新生児を受ける容器のようなものが運び込まれていった。
穏やかならぬ空気だ。
もしや、もう産まれるのか!?
はやる気持ちを抑えながら、廊下をうろうろ。
僕の存在は、忘れられているのか?
万が一、立ち会えなかったらどうしよう・・・・・・
うろうろ、うろうろ。
数分後、
「赤ちゃんの頭が出てきたからもう少し! 頑張りましょう!」
と、妻を励ます声が聞こえてきた。
えっ、頭が出てきた!? もう少し!? そりゃマズイ、ちょっと待ってー!?
────────
「おぎゃー、おぎゃー、おぎゃー」
なんということだ!
かわいい! かわいすぎる!!
(間一髪で出産に間に合った)
ぷっくりして柔らかいほっぺた、小さな小さな手、可憐な泣き声、すべてが愛らしい。
ちょっとした物音でもビックリして、「おぎゃー、おぎゃー」と泣き続ける。
赤ちゃんにとっては、見るもの、聞くもの、すべてが初めての経験。
そりゃビックリするはずだ。
我が子よ、人生は長い。これからじっくり慣れていこうな。
────────
あれから数日が経った。
よく、
「子どもは成長が早い」
と聞くが、
「あんよ」ができるのは1歳前後、
「おしゃべり」ができるのは2歳前後、
と言われている。
「赤ちゃん」としてかわいがれる期間は意外と長いんじゃないか、
と思っていた。
しかし、実際に産まれてみると・・・・・・
おっぱいを飲むのがどんどん上手になっていく。
顔つきも、声も、日々変わっていく。
想像以上に子どもの成長は早い。
それだけに、一日でも会えないとなると、貴重な一瞬を見逃してしまうんじゃないかと心配になる。
────────
妻が病院から帰宅し、3人での生活が始まった。
仰向けになった僕のお腹の上で子どもが寝ている。
「スーッスーッ」
寝息と同じリズムで息づかいも伝わってくる。
「そっか、子どもの呼吸って、大人より速いんだ」
僕の腕の中からは妻の寝息も聞こえてくる。
ああ、幸せってこういうものだったんだ、と思う。
胸が熱くなるのを感じると、不覚にも両目のくぼみに涙が溜まり、こめかみを伝って流れていった。
こんな涙は初めてだった。
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子育てが始まり、これまでとは大きく生活が変わっていくだろう。
仕事に休みはあるかもしれないが、子育てに休みはない。
24時間365日と続いていく。しかも我が家は共働きだ。
女性にとって仕事と子育ての両立をしやすい社会をつくるには、男性が積極的に育児を担うことが必要だ。
男性の子育てが当たり前の社会にするなら・・・・・・「先ず隗より始めよ」だ。
授乳、沐浴、おしめ交換、抱きあやし・・・・・・
今、僕にとってこれらすべてが「かけがえのない時間」になっている。
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