国会で認知症対策の議論を活性化すべく昨年立ち上げた『認知症国会勉強会』ですが、先日開催した第7回勉強会には、九州大学教授の二宮利治さんにご参加いただき、意見交換を行いました。
認知症が遺伝病ってホント!?
認知症予防の普及活動に取り組んでいると、まれに「認知症は遺伝病だから予防には意味がない」と主張する方に出会います。
この主張ってホントなのでしょうか?
二宮教授の研究によると、認知症患者の3割の方が特定の遺伝子変異を持っている、つまり遺伝要因によって認知症になっていると考えられています。
しかし、これは逆に言えば残りの7割の方が遺伝以外の原因、おそらくは生活習慣が原因で認知症になっていると言えます。
また、特定の遺伝子変異を持っている人の中でも認知症にならない人がいることを考えれば、そこに生活習慣が影響しているのは容易に想像ができます。
では、具体的には何が認知症リスクを高くするのでしょうか?
認知症に影響するのはこれだ!!
二宮教授によると、
・高血圧
・糖尿病
・喫煙習慣
・慢性腎臓病
・睡眠障害
・歯牙欠損(鈴木注:歯が少なくなってしまうこと)
・サルコペニア(鈴木注:筋力低下のこと)
・心不全
といった因子が認知症リスクを高くするとのことでした。
ご覧いただくと一目瞭然ですが、ほとんどが生活習慣によるものです。
以下ではこれらについて詳しくみていきます。
高血圧と認知症の関係
二宮教授の研究では、アルツハイマー型認知症と高血圧には相関が見られなかったそうです。
一方、脳血管性認知症についてみると、高血圧の方は発症リスクが最大10倍にもなるといいます。
また、同じ高血圧患者の中でも、若いうちから患っている人ほど認知症リスクが高くなることがわかっています。
タバコと認知症の関係
喫煙習慣のある方はアルツハイマー型認知症の発症リスクが2倍になります。
脳血管性認知症については2.8倍と、さらにリスクが高くなっています。
ちなみに、禁煙した方は喫煙経験の無い方に比べると発症リスクが高くなりますが、喫煙習慣を継続している方よりは大幅に発症リスクが低くなります。
糖尿病と認知症の関係
糖尿病の方はアルツハイマー型認知症の発症リスクが2.1倍に、脳血管性認知症のリスクが1.8倍になります。
ただし、これは食事後の血糖値の変動が大きい方に限った傾向で、変動の小さい方は空腹時血糖レベルが高かったとしても認知症発症リスクは高くなりません。
筋力と認知症の関係
二宮教授によると、運動習慣のある方はない方に比べて認知症全体の発症リスクが20%低く、中でもアルツハイマー型認知症のリスクは40%低くなるそうです。
また、筋力レベルが低い方は高い方に比べてアルツハイマー型認知症の発症リスクが1.9倍に、脳血管性認知症は2.1倍になります。
難聴と認知症の関係
また、最近は難聴と認知症との関係が注目されつつありますが、二宮教授の研究でも、難聴の方は認知症全体の発症リスクが1.9倍になるそうです。
二宮教授は「耳が聞こえないと孤立しがちになるのが原因ではないか」と指摘しています。
どうすれば生活習慣を変えられるのか!?
高血圧、喫煙習慣、糖尿病、筋力低下など、認知症に影響を与える要因の多くは生活習慣に由来しています。
それでは、どうすれば人々の生活習慣を改善することができるのか。
二宮教授は「リスクの見える化」の必要性を強調します。
実際、健康診断の結果を基に糖尿病や脳卒中になるリスクを数値化して示したところ、喫煙習慣のある方の25%が禁煙し、また運動習慣のない方の25%が運動を始め、2年後の調査時点でも継続していたそうです。
「リスクの見える化」が行動変容を促す上で如何に重要なものであるか、定量的に示された素晴らしい研究成果だと思います。
ヘルスリテラシーの向上を図る上で「リスクの見える化」は欠かせません。
私が長年主張し続けている「健康診断改革」の要諦はここにあります。
関心を持っていただける方、共に改革を進めていきましょう。
(この勉強会に事務局として関わってくれている、栗田さんをはじめ日本医療政策機構のみなさんに感謝申し上げます。)