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新ビジョン『ひとに優しい社会へ』を発表


資本主義の危機とは何か?

どうすれば乗り越えられるのか?

記者会見@日本記者クラブで発表した内容をブログにまとめました。

 

【社会が大きく変質してきた】

本稿では、現代の社会が抱える構造問題について、その歴史的経緯と思想的背景、そして対応の方向性に触れながら、なるべくわかりやすく説明していきたいと思います。

いま起きているのは「新自由主義×グローバリゼーション」の進行です。

これにより、サービスが多様化したとか、何でも安く買えるようになったとか、その恩恵は山ほどあったわけですが、一方で、格差の拡大や温暖化など、副作用や過渡期の混乱がレッドゾーンに達しつつあります(いわゆる『資本主義の危機』)。

かと言って、今さらグローバリゼーションの流れは止められませんし、止めるべきでもありません。

一方で、新自由主義については、金融や経済の観点からかなり盛んに議論が行われています。

2020年のダボス会議でも『ステークホルダー資本主義』が議論されましたし、ニュースを読んでいても資本主義が話題にならない日は無いくらいです。

こういう議論が行われている背景には、不安定な雇用や厳しい年金生活など、新自由主義が社会を大きく変質させてきたことへの反省があるのではないでしょうか?

【新自由主義浸透の歴史的経緯】

いつからこうなったのかを辿っていくと、きっかけは約80年前のアメリカに見出せます。

ルーズベルト大統領のニューディール政策以降、アメリカでは公共事業の拡充や社会保障の充実などを柱にした積極的な経済政策が主流になっていきました。

しかし、次第に景気の過熱や公的部門の肥大化が指摘されるようになり、「大きな政府」路線への批判が強くなっていきました。

そして、レーガン政権が誕生すると、今度は「小さな政府」、「市場原理」、「自己責任」の新自由主義3点セットが主流になっていきます。

この大転換の波が我が国に押し寄せたのは1980年代後半です。

当時の懸案だった日米通商摩擦を解決するために、アメリカは市場開放を激しく迫ってきました。

そしてこれを機に、経済構造改革という、ハンドルさばきの難しい高速列車が日本列島を爆走し始めます。

この流れの中で、我が国の社会においても新自由主義が加速度的に浸透していきました。

【社会的公正の実現】

しかし、副作用や過渡期の混乱がもはや許容範囲を超えつつある以上、今後の国のかじ取りにおいては新自由主義的な路線を修正して、社会的公正をより重視していく必要があります。

「社会的公正を広く実現」、言い換えれば『ひとに優しい社会の実現』。

これが私の核となるビジョンです。

そして、社会的公正の中でも特に緊急を要するのが貧困層拡大への対応です。

社会の分断は過激な主張を生み、民主主義を混乱に陥れることになります。

そしていったん貧困層が拡大してしまった社会を元に戻すのは容易ではありません。

【働けば食える社会】

このため、私がまず力を尽くしたいのは『働けば食える社会』の実現です。

逆に、いまの社会は『働いても食えない社会』です。

このことを、具体的な数字でお示ししていきます。

このグラフは、ひとり親世帯の貧困率を国際的に比較したものです。

まず、赤の棒グラフをご覧ください。

これは働くひとり親世帯の貧困率を表したものですが、我が国はアメリカを抜いて、先進国の中でまさかの一番(!!)になっています。

次に黄色の棒グラフと赤の棒グラフを見比べてください。

イギリスも、ドイツも、フランスも、イタリアも、カナダも、アメリカも、働いている世帯より働いていない世帯の方が貧困率が高くなっています。

働けば生活が楽になるのは、ごく当たり前のことです。

ところが、日本だけは、働いたところで貧困率が改善していません。

そういう意味で、このグラフは『働いても食えない社会』を象徴していると言えます。

では、『働けば食える社会』をどうやって実現していくか。

以下、私なりの3つの方策を提示します。

【賃上げ】

まず1つ目は、賃上げです。

それも、「働けば食える」ようにするためには、相応の賃上げが必要になります。

上の表は、2019年の東京の最低賃金、時給1013円で働くフルタイムパートタイマ―のひとり親世帯(小1のお子さんと同居)の家計簿シミュレーションです。

まず、左側をご覧ください。

子育て世帯への公的支援はそれなりに手厚いので、最低限までギリギリに切り詰めた生活を続けられれば、毎年14万円貯金することもできます。

これだけ見ると、一見、なんとかなりそうに見えます。

そこで、次は右側をご覧ください。

同じ人が65歳までフルタイムパートを務めあげた後に、国民年金を満額受給しながら暮らすとどうなるか?

白抜きのセルに赤い字で示されている通り、なんと毎年51万円の赤字です。

この人が仮に90歳まで生きるとしたら、若い頃の貯金を切り崩して、どんなに切り詰めて生活しても、生涯で600万円の借金を作ります。

それどころか、銀行は貸してくれませんから、間違いなく生活保護です。

若い頃は一見なんとかなりそうでも、最低賃金では老後の生活は全然なんとかなっていません。

ちなみに、ほかの条件は同じで、時給が1500円まで上がったらどうなるか、試算してみました。

この場合、最低限の生活であれば、子供(一人っ子)を塾に通わせて、大学に進学させることもできます。

それから、パートタイマ―だと、病気やケガで長期休職するとすぐに生活が行き詰まってしまいかねませんが、時給1500円もらえれば多少は蓄えながら暮らすことができるので、こういったリスクにも耐えられるようになります。

ただし、今回はフルタイムパートを想定して試算しましたが、シフトの関係でフルタイムで働かせてもらえない人も多いでしょうから、実際のところはもっと踏み込んだ検討が必要だと思います。

【貧困層拡大は構造問題】

なお、経済成長原理主義の方に賃上げの必要性について説明をしても、なかなか理解を得られないことが多いのですが、このような場合、

  • 中間層没落の主因は低価格競争ゆえに生じる低賃金であり、低価格競争の主因は人件費の安い国で製造して国内で安く売るビジネスモデルにある。

  • このグローバル資本主義の過渡期の混乱は、世界各国の一人当たりGDPが一定ラインに収束するまで続く(経済学者のトマ・ピケティは、途上国の1人あたりGDPが先進国に追いつくのは2050年としている)。

  • このように、現在起きている貧困層拡大は構造問題であり、経済成長によって解決することはできない。

といった基本的な認識が共有できていないのではないかと思います。

ここは非常に重要なポイントです。

【産業構造の転換】

 なお、GDPが増えているのに中小企業の景況感が改善しないのも、多くは同じ構造によるものです。  グローバル市場における自然な競争の結果として、価格をコントロールできる一部の企業に富が偏在してしまっているのです。  この構造問題から抜け出すためには、収益性の高い業態や業種への産業構造転換を進める必要があります。  国としても、こういった経営努力を応援していきたいと思います。

【伴走型支援】

『働けば食える社会』実現に向けた方策の2つ目は、伴走型支援の徹底です。

『働けば食える』といっても、そこには「働ける」という大事な前提が置かれています。

働き続けるには一定のコミュニケーション能力や忍耐力などが必要になりますが、一部の人にとってはこれが就労のハードルになっています。

普通、こういう基礎力は学業や部活動、そしてそれらを支える家庭教育で培われるものです。

しかし、貧困家庭では親とのコミュニケーションが足りなかったり、勉強する環境がなかったり、部活動費が捻出できなかったりして、基礎力を習得する機会を得られないケースも多く見られます。

また、親から褒めてもらえなかったり貧困が何らかの原因になって友達の輪に入れなかったりして自己肯定感が低くなってしまった子供にとっては、将来への希望を抱くことすら難しいのが実情です。

こうなると、頑張れ、耐えろ、と言われても、何のために頑張るのか、わからなくなってしまいます。

そして往々にして、困難を抱える家庭の親は「誰かに頼る」ことが苦手なので、福祉支援の網の目から漏れてしまうことも多いのが実情です。

この問題の本質的な解決策はただ一つだと考えています。

それは、アウトリーチやスクールソーシャルワーカーを活用して困難を抱える家庭を見出し、複雑に絡まった原因を一つひとつほぐしながら良い方向に導いていく、いわゆる伴走型のサポートを行うことです。

いま現在、アウトリーチから伴走型支援まで一体的に行う取組はごく一部の非営利組織などで行われているだけです。

【あるNPOの取組】

豊島区に、不登校や貧困などの困難を抱える子供をサポートしている『サンカクシャ』というNPOがあります。

『サンカクシャ』では、サポートの必要な子供の家庭を定期的に訪問しています。

そして、信頼関係ができてきたら、今度は『サンカクシャ』の活動拠点に来てもらっています。

活動拠点には似たような境遇の子供たちが集まっていて、ゲームや食事を共にしながらアットホームに過ごしています。

勉強を教えて欲しいという子供がいれば、ボランティアスタッフが教えてあげたりもします。

あくまでもその子の気持ちに寄り添いながらコミュニケーションを続けることで、聞く力とか理解する力、伝える力や相手の気持ちを想像する力のようなソーシャルスキルを身につけさせていきます。

そして、そういう環境の中で、自分のことを大切に思ってくれる他人の存在を感じながら、子供たちは頑張る力を取り戻していきます。

こういった伴走型の支援を全国にくまなく、そしてきめ細かく普及していこうと思うと、基礎自治体に本気で取り組んでもらわなければなりません。

しかし、首長の中には「うちの市には貧困問題なんて存在しない」と言う人もいたりして、貧困というのはとても見えにくいものなのだという認識が行政にすら十分に共有されていないのが現状です。

【スクールソーシャルワーカーの重要性】

また、子供の貧困を見出す上で、スクールソーシャルワーカーの存在は欠かすことができません。

スクールソーシャルワーカーは、個々の生徒が抱える困難を見つけ出して、教員や児童相談所などと連携しながら、介入的な支援を行ってくれる専門家です。

学校なら生徒の様子を毎日把握できるので、本人から助けを求めてこなくても、貧困を察知することができます。

このように、子供の貧困対策には欠かすことのできないスクールソーシャルワーカーですが、現在も各地域に配置されてはいるものの、だいたい10校に1人くらいしか配置されていないのが現状です。

これではさすがに支援の手がまわらないので、今後、抜本的な増強が求められます。

また現状では非常勤職員という位置づけになってしまっているので、スクールソーシャルワーカーのなり手を増やすためにも、雇用形態の問題を何とかしなければなりません。

【生涯現役】

『働けば食える社会』実現に向けた3つ目のキーワードは「生涯現役」です。

上の図表の上段をご覧ください。

これは、高齢世帯の金融資産の保有状況を表したものです。

白抜きセルの赤い字の部分が重要なのですが、ここを見ると、収入がないか、もしくは年金のみで暮らしている高齢世帯の35%は貯金がゼロだということがわかります。

仮に国民年金を満額受給していたとしても、貯金がゼロでは生活できないのは、先ほどのシミュレーションでご説明した通りです。

ここを何とかするためには、働ける間は何歳まででも働ける環境を整えることが重要になってきます。

実際、下段の表でも、70歳以上まで働きたいと考えている高齢者は全体の8割もいるのがわかります。

しかし実際は、一部の企業ではパートタイマ―にも定年制を設けているのが現状です。

憲法第25条で規定している「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するためにも、パート高齢者の「働く権利」を守る必要があるのではないでしょうか?

【国際連帯】

さてここまで、今の時代に実現すべき社会的公正について、貧困対策に光を当てて説明してきました。

しかし、取り組むべき課題は他にもたくさんあります。

そこで最後に補足として、国家の枠を超えた連帯の必要性について触れておきたいと思います。

近年、世界中で税率の引下げ合戦が繰り広げられています。

このチキンレースを続けている限り、あらゆる国において収税力が落ちていくことになります。

そして、社会的公正を実現するための予算を十分に確保できず、結果的に世界全体が不安定になっていくでしょう。

そろそろ、この税率引下げ合戦に終止符を打つべく、国際的な議論を始めるべき時ではないかと考えています。

また、環境問題もグローバル資本主義の下ではもはや一国で対応できる問題ではなくなっています。

仮にある国が環境規制を強化したとしても、企業は拠点をほかの国に移せばコスト増から逃れることができます。

本当に実効性のある環境規制を目指すなら、国際機関に一定の権限を持たせるような仕組みを検討しなければならないと考えています。

この国際連帯については、かなりハードルの高い提案だと思います。

しかし、社会が大きな変化に見舞われているからには、現状に調和的な解決策を求めても問題は解決しません。

今、求められているのは構想力と勇気です。

説明は以上です。

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

質疑応答も含めた記者会見の全体像は、こちらから動画でご覧になれます↓↓↓


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