「妻からは『サラリーマンの頃はちょっと体調がよくないだけで会社を休むこともあったけど、事業を始めてからはそんなこと一回も言わなくなったわね』なんて言われてますよ」
東京都杉並区にあるデイサービス施設「松渓ふれあいの家」の創業者、高岡さんが大きく笑いながら語ってくれた。
80歳を過ぎて理事長職は辞したが、まだまだ元気だ。
「利用者の方から喜ばれるでしょう? だから毎日が楽しくて。それが健康の秘訣かな」
現理事長の小原さんは言う。
「デイサービスを利用している人の8割から9割くらいは女性なんですよ。スタッフも女性が多い。そうすると、レクリエーションの内容も『女性による、女性のためのもの』になりがちなんです」
たしかに、「お歌の時間」「折り紙教室」をはじめ、多くの施設のレクリエーションは女性好みのものが多い気もする。
「だから私たちは、男性も魅力を感じる施設をつくりたいと思ったんです。リタイアした男性の引きこもりを防ぎたいという気持ちもありました」
同施設では麻雀やワイン会など、高岡さんや小原さんが「自分たちが利用者だったらこういうことをやりたい」と思えるレクリエーションを実践している。
実際、利用者の7割は男性となっており、ねらいどおりだ。
「今では麻雀目当てで来られる利用者さんも多いんですよ。でも、当初は麻雀に対する区の理解が得られなくて苦労もしました」
会社の定年退職後に施設を立ち上げた高岡さんのお話をうかがいながら、
「シニアからの起業でも、地域のニーズに合ったものであれば事業を成長させていけるんだ」
ということを学ばせていただいた。
むしろ、ご自身がシニアであるからこそ、利用者のニーズを的確に汲み取れたのかもしれない。
そんな高岡さんに、シニアの方々に向けたメッセージをいただいた。
「リタイア後も、仕事に代わる何かを見つけてもらいたいですね。その活動を通じて、外で人に会う習慣をつけることが大事だと思います」
「事業を始めるにしても、無理に企業を立ち上げる必要はありません。当施設がそうであるように、最近はNPOという形も選択できますからね」
帰り際、80代の男性利用者さんに呼び止められた。
「ここで絵画や書道を教えてもらってね、自分の作品を載せたカレンダーを作ったんだよ!」
そう言いながら、施設に飾ってあるカレンダーを嬉しそうに自慢気に見せてくれた。
なるほど、これも健康の秘訣か。