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認知症基本法の再検討に向けて①



超高齢社会を生きる私たちにとって、認知症は将来の「自分ごと」です。

しかし、認知症になるや社会から切り離され、尊厳を踏みにじられるような言動に傷つき、医療・介護の現場でも場合によっては薬漬けや身体拘束などの酷い目に遭わされている実態はあまり知られることなく、なんとなく「他人ごと」のように問題は置き去りにされています。

これでは、認知症当事者団体から「私たちにも人権があることを知って欲しい」との声が挙がるのも当然です。


この状況を何とかしたいとの思いから、自民・公明両党で『認知症基本法案』を策定し、国会に提出したのが3年前。

当時、社会が大きく前進する期待感に胸を大きくふくらませましたが、残念ながらその後、法案の審議は進んでいません。

進まない理由は、法案を与党だけで提出したからでした。

議員立法を成立させるためには、法案策定プロセスからの、与野党を超えた全会派の理解が欠かせないんですね。

でもこれは重要な法案ですから、棚ざらしのままにしておくわけにはいきません。

何とか打開策はないかと模索しました。

そこで出てきたのが、「全政党が参加する認知症議員連盟を立ち上げ、改めてイチから法案を作り直そう」という動きでした。


ゼロベースで法律案を再検討するとなれば、まずは野党も含めてメンバー全員が課題認識や方向性を共有する必要があります。

そこで、認知症議員連盟(私は事務局長を仰せつかっています)は、昨年の設立以来、各分野の専門家をお招きしての意見交換を行っています。

先日も、株式会社DFCパートナーズ代表取締役の徳田雄人さん、デイサービス『こぐれ学園』代表の小暮康弘さん、川崎幸クリニック院長の杉山孝博さんにご参加いただき、ヒアリングをさせていただきました。


その中で、徳田さんからは、

  • 国の認知症対策は、従来のいわゆる隔離的政策から地域包括ケアへとシフトしてきた。このため現在は認知症の人の半分が在宅で暮らしている。

  • 問題は、この政策的変化に社会が追い付いていないこと。これだけ多くの認知症の人が在宅で暮らすようになっているのに、標識や機械など社会のあらゆるものが健常者を対象に設計されている。このため、駅構内で迷ったり、券売機等の操作ができなかったり、ATMの扱い方がわからなくなったり、というのは認知症の人にとっては日常茶飯事。

  • こういった課題は、医療や介護などの社会保障政策だけでは解決できない。イギリスでは業界ごとに認知症フレンドリーガイドラインを策定し、それを現場レベルまで落とし込んでいる。このため、例えばバスの運転手さんが目的地に到着したことを知らせてくれたり、銀行のスタッフの方がATMから窓口に誘導してくれたりする。日本も分野横断的視点で社会をアップデートする必要があるのではないか。

といったご意見を頂きました。


小暮さんからは、

  • 学校形式のデイサービスを運営する中で気付いたことがある。それは、教室という環境に身を置き、実際に授業を受けてもらうと、認知症の人の長期記憶が刺激され、脳が活動を始めるということ。一般的に認知症の人は集中が続かないと言われるが、こぐれ学園の利用者は皆さん1時間の授業を集中して受講している。トイレの使い方がわからなかった人が自分で用を足せるようになる。歯ブラシの意味がわからなくなっていた人が歯磨きをできるようになる。

  • このような状況ゆえ、こぐれ学園では介助が必要な場面が極めて少ない。介護分野の人材不足が言われるが、認知症を正しく理解し、認知症の人の能力を引き出す環境を整えれば、配置基準を緩和しても十分やっていける。こぐれ学園の経験がそれを証明している。

といった革新的な視点をいただきました。


杉山さんからは、

  • 一般的に認知症の人は生活障害を起こしている自らの状態を認めず、医療や介護サービスを受けるのを拒否する傾向がある。また、時々にしか会わない家族に対してはしっかりした言動をするので、認知症の程度が家族に理解されにくい。このため、適切なケアがないままに重度化し、財産管理のトラブルや悪徳商法の被害、徘徊や近隣との軋轢などが生じやすくなる。

  • また、認知症は暴言・暴力・物盗られ妄想などの周辺症状を伴うため、対応が難しく、医療・介護サービスの利用を断れることもある。結果的に、最も困難と言われる認知症介護を家族に押し付けることになり、いわゆる介護地獄とも言われる状況につながっていく。

  • しかし、認知症を正しく理解していれば、早期にその兆候に気付いたり、周辺症状に悩まずに穏やかな環境でケアをできたりする。専門職も含め、正しい理解の普及が欠かせない。

といった指摘をいただきました。


今回、3名の方々からいただいたご意見はいずれも極めて重要なもので、今後、認知症対策の方向性を定めていく上で欠かすことのできない要素になっていくと考えています。

お忙しい中ご協力いただいた徳田さん、小暮さん、杉山さんには改めて心から感謝申し上げます。

引き続き、法案策定の準備のため、各分野の専門家の方々との意見交換を精力的に行っていきます。


長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

読んでいただいた方にとって少しでも参考になればとても嬉しいです。

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