学校形式のデイサービスに見る、認知症介護のパラダイムシフト

December 27, 2019

 

 

たった一人の男が認知症介護にパラダイムシフトを起こそうとしている。

群馬県前橋市のデイサービス施設を訪問した私は変革の兆しを強く感じた。

 

施設の名は『こぐれ学園』。

学校形式のデイサービスという、聞きなれない介護事業を行っている。

施設の内装はまるで学校の教室。

私が訪問した時は「美術」の授業中だった。

4人いた生徒は全員が高齢者であり、うち3人が認知症とのことだった。

皆が教師の言葉に集中し、そして生き生きと絵を描いていた。

和やかに会話をしながら、時折笑顔に花が咲く。

これ本当に介護施設!?

しかもほとんどの人が認知症!?

キツネにつままれたような気になりながら、代表の小暮康弘さんに話を聞いた。

 

 

認知症介護のポイントは正しいスイッチを入れるかどうか

 

『こぐれ学園』の一日は朝礼から始まる。

その後の「時間割」は、授業の合間の15分休憩と昼休みの1時間を除き、各科目1時間ずつの授業で夕方まで埋められている。

認知症の方の集中力は30分も維持できないと言われることもあるが、小暮さん曰く「うちでは1時間で全く問題ない。皆さん集中して授業に臨んでいる」

ではなぜ、『こぐれ学園』では集中力が続くのか?

「一般的に認知症の方は短期記憶に弱い反面、長期記憶はしっかりしている。学校という、長期記憶を刺激する環境と、知的好奇心を満たせる喜びが脳を活性化させているのだろう。間違ったスイッチを押すと周辺症状が出現して大変になるが、正しいスイッチを入れればいい形で脳が働き出すということではないか」

 

 

「教える」ことを通じてセカンドライフに充実を

 

授業のメニューは英米文学、科学、美術、体育、音楽など多様。

簡単な内容だとかえって満足度が下がるので、一定の教養を持ち合わせている事を前提として大人向けの授業をやっている。

教師の多くは元高校教師や元大学教授など既にリタイアした方々で、中には教師自身が認知症、という方もいる。

介護職員を募集してもほとんど反応なかったが、教師を募集したら応募者が殺到した。

「シニアの方々の、もっと役に立ちたい、社会とつながっていたい、というニーズに合致したのだと思う。学校で教えることが生きがいになり、無為に暮らしていた多くのシニアに活力をもたらすことになるのではないか」

 

 

介護分野の人手不足を解消する

 

小暮さんは学校形式のデイサービスを運営しながら、「世間は認知症の人の能力を過小評価しているのではないか」と感じている。

『こぐれ学園』での振る舞いを見る限り、認知症の方であっても皆さん「ごく普通の教養ある高齢者」の姿だからだ。

実際、授業中はみな集中して勉強しているし、休憩時間も自分のことは自分でできるようになるため、介助が必要な場面はまず出てこない。

このため、介護職員は介助以外の仕事を進めることができる。

一般的に認知症介護には人手がかかると言われるが、「このやり方なら、介護分野の人手不足を解消することができるのではないか」と小暮さんは確信している。

 

 

劇的な改善を見せる利用者の皆さん

 

『こぐれ学園』で1日を規則正しく過ごすことによって、頭と体に適度な疲労を与えることになる。

このため、自宅に帰るとぐっすり眠り、徘徊などは起きなくなる。

また、意思疎通の力が戻ってきて、家族との間に会話が生まれる。

その中から家事の分担が始まり、家でボーっとせずにメリハリのついた生活を送ることができるようになる。

 

利用者の変化は顕著だ。

 

小暮さんには忘れられない出来事がある。

ある男性利用者を自宅に送り届けた時のこと。

玄関で出迎えた奥さんに対して、その方が笑顔で「ただいま」と声をかけた。

一見、何気ない日常のひとコマだ。

しかしその時ふいに、奥さんの頬を大粒の涙が流れた。

ここ数年、旦那さんの笑顔を見たこともなかったし、旦那さんから声をかけられることもなかった。

その方は、『こぐれ学園』に通う中で、それまでできなかった歯磨きや手洗い、そしてトイレも自分でできるようになった。

また、他人との意思疎通が全くなかった状況から、人に話しかけて積極的にコミュニケーションをとるようにまでなった。

 

 

認知症介護を変える戦いはこれから

 

従来型介護との違いは明らかだ。

 

数十年後、私たちの子供たちか、あるいはそのまた子供たちは、「昔、ケアマネに全く相手にもされなかった一人の男が、小さなデイサービスから認知症介護の在り方を変えていった」と語り継ぐことだろう。

そして、今を生きる私たちには想像もできないほどに認知症介護の質が抜本的に向上し、介護分野の人手不足が解消し、シニアのセカンドライフが充実という名の光に照らされていることだろう。

 

いま小暮さんが、そして私たちが人生を賭して戦うのは、そのような将来を自らの手で実現することに希望を見出しているからに他ならない。

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